4TEEN(not石田衣良)

 突然ですがみなさんは、14歳のとき「将来こうなりたい」というヴィジョンをお持ちでいらっしゃいましたか? あたくしがそんなヴィジョンを描けるようになったのが、ちょうど14歳のときでした。生まれて初めて、「30を超えたら、こんな女になりたい!」と具体的なモデルを見つけた衝撃に浮かれまくっていたことを、いまでもはっきり記憶しております。そのロールモデルは、小林麻美……。

 30代以上の人であれば、80年代中盤に大ヒットした『雨音はショパンの調べ』を覚えている方も多いでしょう。あたくし、2年ほど前、とあるお洋服がらみの場所で、偶然肩が触れ合って同時に「すみません……」と言い合った相手が麻美だった……という幸運を経験し(本来あたくしは街中で現役タレントを発見したところで眉ひとつ動かないババアです)、思わず大興奮、危うく彼女の手を取って

「あたくし、『雨音はショパンの調べ』も『哀しみのスパイ』も、いまだカラオケでよく歌いますの。でもいちばん好きなのは『恋なんてかんたん』。どうしてカラオケに入らないんでしょうかしら、あんな名曲が。て言うか、『恋なんてかんたん』はプロモビデオも素晴らしかったですわ。貴女ったら、わざとフォークを床に落として、それを拾おうとした白人のホテルマンの手を……。ああ、もうこれ以上は人前では申せませんわ!」

 と、滔々とまくし立てたくなる衝動を必死で抑えたことがありました。ホントあたくし、頭おかしいわ。

 松本隆が作詞した一連の松田聖子の曲のテーマは「かわい子ぶってるくせにやたら強気で計算高くてハードボイルド」というもので、確かにその世界観にも決定的に影響を受けたあたくしですが、14歳のあの夏は、麻美のアンニュイ&ゴージャスな大人のお転婆に身を焦がすような憧れを抱いていたんだったわ……。

 ええ、今日になってそんなことを思い出したのは、自宅で調べ物をしているついでに、あのPVをようつべで見つけてしまったからですの。DVDなどで発売されているものであれば、あたくしも「買うなり借りるなりして見て頂戴」とも言えるのですが、絶版になっているものですので、なかなかみなさんと思いを共有できませんでしたが、今回ついに……! まあ、直接リンクを貼るわけにもいきませんので、ご興味のある方は検索してくださいませ。

 わざと床にフォークを落としてからワインを飲むまでの流れるようなやり口。そして、海老を食らうときですらアンニュイをキープする不可思議さ。かてて加えて、海老を食らうときと同様、ホテルマンを食う前にもレモンをかける統一感……。何もかもが完璧です。って、あたくし14歳のときから、憧れる様式がババアのそれだったんですわね。うふふふふ。

 ピッツァにペペロンオイルをかけるように、パスタにパルメザンをかけるように、どんなに好みの男であっても、さらに厳密に自分好みになるよう味の調整に万全を期す。14歳のあたくしに麻美が教えてくれたおかげで、あたくしは日本屈指のメープルシロップの大量消費者になったわけです。ええ、ホントあたくし、頭おかしいわ。

 え? 解釈が違うって? そりゃまあ、麻美に植えてもらった種がどこまでもあさっての方向に伸びてしまった自覚は持っておりますが、でも、文化はそうやって拡大解釈されて広がっていくものなんですよ!