フィギュアスケートマニア歴36年

 このところ、病院に行く以外は外出を控えめにして、静養をメインに過ごしています。「静養をメインに過ごす」ということは、必然的にお家で過ごす時間が長くなる、ということ。なのにお仕事はいっこうにはかどりません…。

小説すばる』の連載の原稿が進まず、胃が痛くなるような思いをしているのは……たぶん見栄なんでしょうねえ……。「いままでの高山がやったことのないトーンで」というルールを設定したのは自分なのに、「できるはず。なんでできないの!」と自縄自縛に陥っているわけです。要するに、自分の実力を高めに見積もってしまっているという恥ずかしい状況。自分にとことん甘いあたくしには、けっこうな頻度でこういうことが起こってしまうの。ま、「進まない…」と落ち込むことで我に返ることもできますし、そのたびになんとか軌道修正している(と思う)のですが。

 さて、そんな静養中、ネットのライブ中継で見ていたのが、フィギュアスケートのジュニアのグランプリ大会。チェコオストラヴァという都市で開かれた大会だそう。シングルス女子で優勝したグバノワは、もともと注目している選手ではありますが、もうショートプログラムの演技前から釘付けになりました。

 名前をコールされると、たいていの選手は滑りながら両手を広げ、審判と観客に挨拶をするのがお約束ですが、まだ13歳だというグバノワ、その挨拶が「肩甲骨から指先までの骨とか関節の数が、一般人の3倍くらいあるんじゃないか」というほど、繊細な動きでした。バレエを厳密に叩き込まれていないと(と、あっさり言ってはいますが、それがどれだけ大変なことか)、こういう動きはできないものです。しかもそれを「バレエ」ではなく、さまざまなエレメンツをこなす「スポーツ」の中で見せていくとは。競技はちがうけれど、新体操のクドリャフツェワを初めて見たときの衝撃に近い感じというか。フィギュアスケートのくくりの中で言えば、やはり思い出すのはオクサナ・バイウルですわね。『瀕死の白鳥』つながりでもありますし。

 演技そのものも素晴らしかった。エッジワークの洗練度は驚異的。特にダブルアクセルを降りた後の流れといったら! ロッカーターンとツイズルでのかすかなブレは、技術的な欠点というよりは精神的なものでしょう。もしかしたら、ものすごーく緊張していたのかもしれません。そういう場合、最難関のエレメンツ以外のところで、ふっとエアポケットが生まれてしまうこともありますし…。ま、そんな些細な部分をあげつらうのも野暮なほど、将来性を感じている選手です。
(グバノワSP)

 僅差の2位だった紀平梨花(アスリートとして扱っていますので、グバノワと同じく敬称略なのをご了承くださいませね)は、少し前のニュースで「トリプルアクセルを跳ぶジュニア」として大きく紹介されていました。フリーでの3アクセル挑戦は惜しくも失敗。というか、本当にヒヤッとする転倒の仕方でした。ケガには気をつけてね…。

 で、特筆すべきなのは、トリプルアクセルがどうこうというより、「ジャンプの技術全般が本当に高い選手である」ということでしょう。年齢的にどうしても体が完成していないジュニア選手は、ジャンプ前に体を前傾させ、それをグッと起こす勢いと、大きく広げた両手を回転方向のやや上に向けてブン投げるようにして出す勢い、その両方の勢いでジャンプを跳ぶ選手が多いもの。しかし紀平は、なんと言うか、「体の締め」でジャンプを跳べている。直立に近い姿勢から跳び上がる際、体の中心にあると想定される「回転軸」に向けて、両腕を含めた体の全てのパーツをキュッと締めることで、ジャンプを成立させているのです。コンボのセカンドジャンプのトリプルトゥであっても、これがきちんとできているのは、本当に素晴らしい! ジャンプを跳ぶ際のエッジの使い分けも見事なものでした。演技最後のトリプルルッツ、ディープなエッジ使いのエントランスから跳び、美しい着氷の流れのままにツイズルまでつなげていくのも驚くばかりでした。演技全体も、非常に精緻。濱田美栄コーチは、「本当にプログラム全体に神経が行き届いた指導が見事だ」と、いつもいつも感服しています。
(紀平FP)

 やだ…長くなってしまいました。そろそろ『小説すばる』の原稿を仕上げないと大変なことになります。この大会では、『キル・ビル』のサウンドトラック(つか、あたくし的には梶芽衣子の『恨み節』)を使ったカザフスタンのムハメトカリエワのことを書こうと思っていたのに…。それはまた後日にいたしましょう…。

 フィギュアスケートといえば、サイゾープレミアムの連載では、羽生結弦24時間テレビで披露したスケーティングのことを書いてみました。よかったらご一読くださいませ。
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