池袋ウェストゲートパニック

 数日前、あたくしは池袋で仕事の打ち合わせをした後で、和食バイキングのお店で夕食を食っておりました。ええ、過去の日記『池袋の夜』でもしたためましたが、「池袋の住人」化はますますもって加速しております。

 低炭水化物メニューだけを組み合わせてもそこそこのものが食べられ、しかも2500円程度なのはありがたいこと。もともと、ハンバーグや鳥の唐揚げ、スチーマーに置かれっぱなしでソフト麺のようになったスパゲティや、粉っぽいカレーなどには食指が動かない性格なのも幸いし、わりと心穏やかな食事の時間を過ごすことができました、最初の10分までは……。

 あたくしの横の席には、20代中盤と思しき、大変スリムな女性がひとりでお食事をなさっていましたが、その女性の前にある、直径25cmほどのトレイの、あまりのインパクトに息を呑むあたくし。思わず、普段はまったく使わない機能である「携帯で撮影」をしてしまうところでした。赤の他人のトレイなのに……。

 テーブルの上に置かれたトレイはふたつ。ひとつには、鳥の唐揚げが10個ほどに、酢豚の豚だけがやはり10個ほど、皿うどんのアン部分の肉だけが握りこぶし大、鳥のスペイン風トマト煮が10切れほど、ミニ春巻きが5個ほど。そしてもうひとつのトレイには、炒飯2種類にスパゲティ2種類がうずたかく盛られています。

 自分の食事に集中するふりを懸命に装って盗み見ていると、「一心不乱とは、このような状態を言うのか」と思わせる素晴らしいピッチで目の前の「山」を消していかれます。ひじをついたまま箸をお使いになっているのは、「食い」に集中するあまりマナーまで気を使っていられないのでしょう。そのあまりの迫力に、「ソルジャー」の称号を与えたくなってしまったほどです。

 トレイ2つをきれいに召し上がった後、カバン類はそのままで席を立つ彼女を見遣りながら、「やはりあれだけ食べたらお茶くらいは必要よね」と呑気に考えていたあたくしが愚かでした。戻ってきた彼女のトレイを、あたくし今度はガン見です。1度目とまったく同じ、山のような肉……。そのトレイを一度テーブルに置いて踵を返したと思ったら、同じく炭水化物の山をトレイに乗せて戻っていらっしゃいました。この時点で、「何かただならぬことが起こっている」と察知した彼女の周りの席の人たちの空気が変わったのを、あたくしハッキリ感じました。

 そのふたつの「山」を同じく10分足らずで「更地」にした後、もう1度、トレイふたつを山にして戻ってきた彼女。3度目になってもまったくペースは落ちず、10分足らずで2つの山が更地に……。都合6つの山がなくなってしまいました。デヴィッド・カッパーフィールドやプリンセス・テンコーにだって不可能なイリュージョン。あたくしも、周りの席のお客様も、もう夢中です。

 そして4度目の戦に出かけた彼女は、今度はおまんじゅうやヨーグルト、白玉の冷たいお汁粉をトレイに乗せて戻っていらっしゃいました。「デザートは別腹」とはよく言ったものです……。そのデザートを、ものの2〜3分でお腹に収めた彼女がまた席を立ちました。「まあ! デザートのデザートがあるのね!」と色めきたつあたくし。しかし、あたくしはやはり愚かでした……。

 戻ってきた彼女は、また山のような肉と炭水化物を! ご存知の方も多いかと存じますが、フレンチなどでは、メインディッシュの前にお口直しとしてシャーベットなどを出すお店も多々ございます。あのデザートは、単にお口直しだったのです……。

 そしてメインに突入した彼女は、さらに1度のおかわりを敢行、合計で10個の山を消した後、おまんじゅう5個とスイートポテト5個、わらびもち10切れほど、蕎麦猪口ほどの大きさのグラスに入った白玉のお汁粉とヨーグルトを平らげて、ようやくカバンを持ってレジへ……。周りの席の方々が一斉に大きなため息をついたのが忘れられません。

 ビックリするくらい細身でいらしたので、9割の確率で摂食障害の方なのでしょうし、それはそれで大変に心痛むことなのですが、残り1割で「まだテレビに出ていない、赤坂尊子やギャル曽根の後継者」と思いたいあたくし。そしてフッと気がつくと、あたくし、普段の半分程度の食事でお腹いっぱいになってしまっておりました。あまりに凄いものを見ると、満腹中枢まで満たされてしまうのですね……。彼女の生き方に口を挟むつもりは毛頭ございませんが、できることなら、あたくしが食事するときには、いつでも彼女に横にいてほしい……。皆様、凄まじい生き方をしている方を目にしたいなら、3000円以内で食える食べ放題のお店はオススメですわ……。やはり池袋は侮れません……。