池袋の夜(青江三奈先生リスペクト)

 現在、人生において約20000回目のダイエットをしているのですが、そんなときに強い味方になってくれるのが、食べ放題です。

 と書くと、何やらもったいぶった逆説で人目を引こうとする嫌らしさが透けて見えるようですが、さにあらず。低炭水化物ダイエットをするうえで、バイキング形式のレストランほど適したお店はありません。野菜・海藻・魚・豆類・蒸すか茹でた肉だけでお腹を膨らませるのがあたくしのお約束ですが、池袋にある2軒の和食系バイキングのお店をかなりの頻度で使用しております。あたくしすっかり池袋の住民と化してしまいました。

 池袋という土地柄のせいなのか、食べ放題という食事形式のせいなのかははっきりしませんが、あたくしにとっては、かつてお目にかかったことのない、非常に斬新なタイプの人たちに会えることも、こういうお店を使ってみて得られたメリットのひとつでしょうか。今回、池袋の某店にて、大変ワイルドな方にお目にかかり、「忘れないうちにこの記憶を書き残しておかなければ」との衝動にかられております。

 あたくしが通された席の隣ではすでに、カップルと思しき20代後半の男女が座ってお食事をなさっていました。壁際のほうに座っていた女性は、左側に合皮のハンドバッグを置き、右側にユニクロの買い物袋を置き、という「両手に花」状態。あたくしが座るべき席を問答無用に侵食してユニクロの買い物袋が鎮座ましましておりました。しばらく立ちすくんでも気づく気配がなかったので、「失礼」と言い紙袋をやや女性側に移したのですが、女性はまったくのノーリアクション。うんともすんとも言いません。

 不思議な方もいらっしゃるものね、と思いながら何気なくお二方に目をやり続けていると、女性の食べ方が「ワイルド」という言葉では収まりがつかないほどのセンセーショナル加減。量は大して食っていないのですが、両肘を常にテーブルの上に乗せ、お豆腐を食うときですらこちらにまで聞こえるようなボリュームでクッチャクッチャと咀嚼をし、紙ナプキンを使ったと思えば、それをそのままテーブルの下に捨てる……、という荒技を次々に繰り出します。

 挙句の果てには、食べきれなかった食べ物を男性の汁椀の中に入れるわ、トレイの上に残ったジャガイモを潰すようにして、上からトレイを重ねてプレスするわ、まさにフィニッシュホールドの連発。日本は「美しい国」など、嘘八百ですわ……。

 いえ、これだけでしたら、ネット世界が言いますところの「DQN」ですむ話なのですが、信じられないことにこの二人、食事が終わった後で、やおら鞄から結婚式場のパンフレットを取り出して、会場をどこにするかの相談を始めたのです……。

 あんな凄まじいテーブルマナーを目の当たりにしても、なおこの女性と結婚するつもりの男性がいらっしゃる……。深刻な晩婚化・非婚化が叫ばれる東京での出来事だとは思えません。「池袋」という土地には神風が吹いています!

 ちなみにあたくし、女性のアバンギャルドすぎるテーブルマナーを拝見するうちにお腹いっぱいになってしまい、いつもの半分の量で食事を済ませ、あとはお茶を飲みながら本を読むふりをして、お二人が「やっぱり新婚旅行はハワイだよね」などと言っている様に聞き耳をたてるのに一生懸命。今日分のダイエット、思わぬ形で大成功です。

 それにしても、こういう人たちの間に生まれて、こういう人たちに育てられる子どもって、いったいどんな子になるのでしょう。あたくし危うく、お二人に声をかけ、向こう10年の友人付き合いのお願いをするところでしたわ……。

 皆様、食べ放題は侮れません……。