『羽生結弦は助走をしない』という新しい本が出ます

 ずいぶんご無沙汰してしまって申し訳ありません。実はずっと新しい本の執筆に取り組んでいました。
 1月17日に、集英社さんから『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』というタイトルの新書を出すことになりました。

 私が初めて「仕事」としてフィギュアスケートのことを書き始めたのは2016年3月。サイゾーpremiumさんでの連載がきっかけでした。このブログでは「フィギュアマニア歴〇〇年」というタイトルで、何度かフィギュアスケートのことを書いていることは、推定5人の読者のみなさんはご存知かもしれません。ま、「ずっと読み続けてくださっている読者の方」にまで範囲を狭めると、推定2人くらいだと予想していますが。うふふ。

「あまりに好きすぎるものは、仕事にしないほうがいい」というテーゼを、私はわりと長いこと信じてきました。ですから「サイゾーpremiumさんでポツポツ書いていければいいかな」くらいの気持ちでいたのですが、それを変えてくれたのは友人の言葉です。

 体調が上向いてきた今だから言えますが、春から夏にかけて、「今のうちに遺言状を書いといたほうがいいかも」とまあまあ覚悟をするような状態でした。それを友人に言いましたら、
「遺言状より先に、書くべきものがあるはずでしょ。私は、アンタのフィギュアスケートのエッセイかなり好きよ。ああいう視点で書いてるの、いかにもアンタらしくて。まずは書き溜めることから始めてみたら? それがこの先、日の目を見るかどうかより、書いていくうちにもしかしたら、体調面でも仕事面でも新しい扉が開くかもしれないでしょ。そちらのほうに期待をしたいわ」
 と発破をかけられたのです。私も私で、
「ま、確かにそれも一理あるわ。書くことはベッドの上でもできるし。それで結局『遺言状がわりの文章がフィギュア関連のことで埋め尽くされている』なんてことになったんだったら、逆におしゃれよね」
 と、前向きな気持ちを取り戻したのです。どこに売り込みをすると決めたわけでもなく執筆を続けていく中で、手術もわりとうまくいき、体調も上向いてきたのですから、不思議なものです。

 私は、集英社の『小説すばる』という文芸誌で期間限定のエッセイの連載も持っているのですが、『小説すばる』の担当編集の方と、電話やメールではなく久しぶりにお目にかかっての打ち合わせを、秋の終わりにしました。そのときの軽いおしゃべりの中で、フィギュアスケートのことをあれこれ話していましたら、
フィギュアスケートのこと、1冊の本にまとめられませんか? 私は文芸の編集なので難しいんですけど、社内の別の部署の人間に話を通したい」
 と言ってくださって。

 そんな素敵なお申し出をいただいたのに、私ったらワガママをひとつ言いました。
「出版される・されないは、私の文章力や構成力、ものの見方が深いか浅いかといった、私の『能力』の問題なので、出版されないことになってもなんの文句もありません。でも、もし出していただけることになりそうなら、可能な限りお手頃な価格で読者の方にお手に取っていただけるようにしたい。そういう部署の方とつながりはありますか?」

 フィギュアスケートのファンの方々は、チケットをとり、試合会場やイベント会場がご自宅から遠い場所であれば交通費やホテル代まで考えなくてはいけません。私も体がしっかり動いていたころは、「どうやってやりくりしようかしら」とよく考えていました。私の場合はファッションヴィクティムでもあったので服飾代もかさんでいたし、病気のお母様の面倒を見ながら昼も夜もなく働いていた恋人が生きていた頃、そして彼が先に亡くなりやがって病気のお母様が残されてしまった後は、お母様の医療費のバックアップを自分なりにしていた時代もありました。なので、「どんな状況であっても、フィギュアスケートを観に行きたい!」という気持ちを経済面でも叶えるのは大変だ、ということは知っています。
「フィギュア好きの方々にもお読みいただけるものにしたいのならば、やはりなるべく価格は抑えたい」
 というのは、生意気ながら譲れないラインだったのです。『小説すばる』の担当さんは私の気持ちをくんでくださり、新書の編集部の方をご紹介くださいました。そして新書の担当さんからゴーサインが出て、さらに気合を入れてパソコンに向かい、原稿用紙で280枚ほどの原稿を書き、こういう運びになったわけです。

 遺言状のつもりで書いていた文章が、数か月後、1冊の本の中に入る。ご縁や流れというものは本当に不思議です。

 サイゾーpremiumさんで書いていたエッセイのいくつかも、加筆・再構成をして入れています。ものすごく生臭いことを言ってしまえば、サイゾーpremiumさんには1円も入らない案件なのに、サイゾーpremiumの担当編集の方も手放しで喜んでくださって。集英社さんとサイゾーさんの間で面倒くさい話し合いは一切ナシ。つくづく、いい方ばかりに恵まれている幸せを実感しています。そんな太っ腹な姿勢を見せてくださったサイゾーpremiumさんで、まだまだフィギュアスケートのエッセイを続けさせていただきたいな、と新たな欲も生まれています。

 まだすべての作業が終わったわけではないのですが、かなり形としてはまとまってきました。
羽生結弦の演技のツボ」という観点で、2010年の世界ジュニア選手権フリーの『パガニーニ』から、今シーズンの『ショパン バラード第1番』&『SEIMEI』まで、私が目を引かれた演技の「ツボ」を、箇条書き形式を織り交ぜて書いているのですが、その部分だけで100ページほどあります。目次やまえがき・あとがきまで含めて全250ページほどの本のうち、100ページ。読み返してみて、あまりの分量に自分で笑ってしまいました。
「オタクとは空気も流れも読まないもの」と、一介のフィギュアスケートオタクの私は常々言っていますが、それを自ら証明するかのような…。でもまあ、「羽生結弦のすごさ」ですとか「羽生結弦がシーズンごとにどのように飛躍的な成長を遂げていったか」を私なりに書くために、必要な分量であったことは、ご理解いただけたらなあと思います。
サイゾーさんに12月11日にアップされる予定の「羽生結弦の『戻ってくる世界』を考えてみた」というエッセイで書いた、オータムクラシックのショートプログラムの「ツボ」の完全版も当然ですが入っています。「長い・ウザい」と言われることは百も承知でございます・笑)

★申し訳ありません。エッセイのアップ、「12月10日」だと書いていましたが、担当さんからのメールを再読したら「12月11日」でした。お詫びして訂正いたします。

 さて、体力の問題もありますので、今日のブログはここまでで…。また数日後、続きをアップできればと思います。