先駆者は常に捨て石だよ

 タイトルは名作テニス&宗教漫画『エースをねらえ!』から。お蝶夫人こと竜崎麗香が父親から言われた言葉です。40代のマダムに見えるのはあくまでも外見だけで、実際には女子高生にすぎない娘っ子が自分の父親から「捨て石」呼ばわりされることを掛け値なしの『美談』としてまとめ上げる山本鈴美香先生の豪腕に心底恐れ入ったのは中学時代のこと。セリフのインパクトという点でいえば、そうねぇ、『ベルサイユのばら』の中でマリー・アントワネットが無邪気かつエレガントに言い放った「まあ…『お金がない』という、この世でもっとも恥ずかしいことをちっとも隠さずに(告白できるなんて)…」に匹敵するものでしょう。

「先駆者は常に捨て石」……。
 92歳(自己認識年齢)まで生きた身です、その残酷な真理に涙したことは2度や3度ではききません。1冊目の本でも少し書きましたが、浜崎あゆみが「あゆ」と呼ばれるたび、「元祖あゆは、いしだあゆみなのに」と臍をかんだなんてのは序の口。あれは90年代の初頭でしたでしょうか、ジュリアナ東京の全盛期に「ジュリ扇の元祖は荒木師匠だなんて、歴史のねじまげもいいところ! 元祖はジュディ・オングの『麗華の夢』に決まってる!」とひとり憤ったり、マドンナの『VOGUE』がチャートを賑わしていたころ、「マドンナは確かに凄い存在だけど、ヴォーギングの元祖は金井克子よ!」と虚しいアジテーションを繰り返したこともありました。


ジュディ・オング『麗華の夢』
http://www.youtube.com/watch?v=pZ6vRo7-16A
※『魅せられて』といいコレといい、曲も衣装もムダにゴージャス。
叶姉妹の「ゴージャス」は、本人たちもギャグとして受け取られてもいいような
ニュアンスを混ぜ込んでいるけれど、
ジュディは清々しいほど真っ向勝負。


金井克子『他人の関係』
http://www.youtube.com/watch?v=dwYxlImKsiQ
※そうなの、ヴォーギングは気取り屋の表情を崩しちゃいけないのよ……。



 さて、先日、あるテレビ番組を録画したDVDを友人から借りて見ていたら、DAIGOが
「デビュー当時(DAIGO☆STARDUST時代)は『宇宙から来たロック王子』という設定で売り出したんですよ。小倉優子さんの“ゆうこりん”より先のはずなんですけど、俺は設定が甘くて、プロフィール欄には普通に『出身・東京』とか書いてました。だからあっという間に行き詰って。あそこまで作りこめる小倉さんはマジリスペクトっす」
 という内容のことを話していました。どうやら「芸能界にデビューした宇宙人」の元祖はDAIGOかゆうこりんで話が固まりつつあるようなのです。

 テレビ画面に向かってあたくしが激昂してしまったのは申すまでもないでしょう。だって、ゆうこりんやDAIGOに遡ること20年以上、芸能界にはすでに宇宙人がいたんですもの!

 皆様、「スターボー」というグループをご存知ですか? 1982年、日本の芸能界では、「太陽系第10惑星『スターボー』から、この地球に『A・I』(愛)を伝道するためにやってきた、性別不詳の宇宙三銃士」がデビューしました。それが「スターボー」。やらされ感満載の日本人の女の子3人組のように見えないこともないのですが、れっきとした宇宙人です。だってデビュー当時は「持ち歌の歌詞以外の日本語が話せない」という設定だったから。

 そんな大義を胸にわざわざ日本にまでやってきた宇宙人を、当然、芸能界は三顧の礼で迎えます。デビュー曲は、作詞が松本隆、作曲が細野晴臣という、超ゴールデンコンビが手がけました。はっぴいえんどの言葉の神とYMOのテクノミュージックの神が結合したそのデビュー曲は、当然テクノポップ。「3人組」という共通点も含め、ある意味Perfumeの元祖と言えないこともないでしょう。

 デビュー曲のタイトルは『ハートブレイク太陽族』。性別不詳の宇宙人3人組を素材にし、テクノポップの大御所が仕掛けたミラクルは、しかし、何から何まで前衛的すぎました……。

http://www.youtube.com/watch?v=q_laxO4tVOI

 先駆者は常に捨て石……。山本先生、あなたはどこまでも正しかった……。