diva、divina

 学生運動華やかなりし頃、大学のそこかしこでは、ボサボサの髪にラッパズボンの小汚い学生たちが、「自由とは」「革命とは」など、本人たちにも意味が分かっていないだろうテーマを、やたら大きな声で語り合っていたそうです。それはまさしく、「口角泡を飛ばして」という表現がぴったりだったとか。

 あたくしは92歳(自己認識年齢)のババアですので、学生運動が盛んだった時代の大学の様子をリアルタイムでは存じません。が、最近ではめったに見られない「口角泡を飛ばして議論する」という光景が少し懐かしくもあります。なんとなく、「若さの象徴」って感じがいたしませんこと? 後から考えたら「どうしてあんなことであんなにアツくなっていたのか」という恥ずかしさで、身の置き所がなくなるような感覚。そんな経験は、若いときにしかできません。

 そんなふうに若さを懐かしむばかりのあたくしですが、なんと先日、友人と「口角泡を飛ばして議論する」という経験を久方ぶりにしてしまいました。まあ素敵! あたくしにもまだ僅かながら「若さ」というものが残っていたなんて! 議題は、

「日本の歌謡史上、もっとも音痴だったのは誰か」

 ……恥ずかしいったらありゃしません。こんな議題で真剣になるなんて、学生運動の小僧どもをどのツラ下げてバカにできたんでしょう。末期です……。

 まあ、それでも真剣に議論したおかげか、それなりの収穫はございました。

沢口靖子の『follow me』に安田成美の『風の谷のナウシカ』、北原佐和子の『スイートチェリーパイ』、そして、新井薫子の『OH!  新鮮娘』(「ドドンパテクノ」という、誰一人フォロワーがいなかったジャンルを開拓。歌、衣装、途中のハウリング、ビデオが切れるタイミングや切れた後に一瞬だけ映る画面、何から何まで神がかっています!)

サエコは自分の曲で「デビュー」していないので、涙を呑んで却下※

 など、錚々たる音痴の名が挙がりましたが、やはり次に挙げる2人を忘れるわけにはまいりませんでしょう。まずひとりは武田久美子。先ほど挙げた4人が露払いレベルに堕ちてしまうほどのインパクトを誇ります。そして武田久美子さえ圧倒する勢いで輝きを放つ、日本歌謡史上に残る前衛的歌唱力の持ち主、三井比佐子。デビュー曲のタイトルは『月曜日はシックシック』。「聴いてるこちらが病気になりそう」などというツッコミは却下いたします。

 聴いているこちらの平衡感覚を奪うかのような暴力的な歌唱力。「かわいそうな子」の雰囲気がプンプン漂う振り付けも含め、何もかも完璧です。なんでも友人の情報によると、当時出たアルバムは「マニアをして『B面にひっくり返す勇気がない』と言わしめた」という伝説を残したとか。学生運動に明け暮れた小僧どもが夢想しただろう「革命」の3万倍くらい革命的ですわ……。(2007年3月7日のmixi日記より。年齢とyoutubeのリンクだけ変更)