nouvelle musique

 芸術の秋。みなさんいかがお過ごしですか。アタシは死ぬほどの忙しさがようやく一息つき、この秋分の日は、数ヶ月ぶりに仕事がらみのことを何も考えない休日を過ごしました。って、そういうときに限って大風邪ひいたりするんですけどね。

 外に出て悪化させるわけにも行かないので、今日は1日中DVD三昧。友人たちが気散じにとくれたDVDの山を片っ端からやっつける秋の日だったわ。ま、「芸術の秋」なんて言われているんだし、たまには心ゆくまで映像の芸術に浸るのもいいでしょう。

 16時間程度の鑑賞で、アタシの心を爆笑で満たしてくれた天才の仕事をふたつ発見できたのはかなりの収穫ね。まずひとつは、竹下登の孫であることをカミングアウトした瞬間にブレイクしたDAIGO。彼がまだ「DAIGO☆STARDUST」という芸名で、身体ひとつで勝負していたころのシングル『Rock the Planet』のプロモーションビデオ。この子、昔から笑わせる気マンマンだったのね……。


 デヴィッド・ボウイあたりを目指すつもりで飛び乗った電車の終着駅がジュディ・オングだった。


 と、文字に起こすと非常にわかりづらいでしょうが、そうとしか言えない出来栄えの素晴らしいPVだったわ。徹頭徹尾、妙ちきりんなダンス(しかも感心するのは、やらされてる感が一切なかった)にも脳みそを持っていかれ、「3回リピートしても歌詞の内容が一文字も頭に入ってこない」という凄まじいオマケまでくっついてくるという親切さ。ホントにこれが曲のプロモーションになるのか……という疑問は泉のように湧いてくるものの、そんなPVだからこそアタシをこんなにも楽しませてくれたわけだし、ここは素直に「ありがとう」と言わせていただきましょう。

 で、もうひとつは「映像芸術」というよりは純粋に「音楽芸術」と呼ぶべき作品。某テレビ局で放映されたという、中村紘子ことピロコ大先生渾身の『ラフマニノフピアノ協奏曲第2番』。すべてのピアノコンチェルトの中でラフマニノフの2番と3番が特にお気に入りのアタシのために友人が貸してくれたものなんだけど……凄いの! 何がどう凄いって、もう凄いとしか言いようがないの! 奇跡の演目だったわ。

 鳴り響く鐘の音を模したといわれる導入部から、いきなり鐘がクラッシュ。その後はクラシックの概念に真っ向から立ち向かうかのような、緩急自在にうねり続けるテンポ。「これぞロシア」と言いたくなるラフマニノフ独特の不協和音とは明らかに違う和音の響き……。そんな奇跡が第1楽章から第3楽章まで切れ目なく続くというフリーダムな音楽空間。オーケストラがピロコ大先生の自由すぎるピアノになんとか寄り添おうと必死になっている様を見るだけで、感動の涙とはまったく別種の熱いものがこみ上げます。

 鑑賞後は当然のように、この素晴らしい作品に対して、電話やメールやmixiで言葉を交わす友人たちとアタシ。

「どうしてあの局はこれを放映する気になったのか」
「もしかしたら、ラフマニノフのピアコンと勘違いしていたのはあたくしたちだけで、あれはラフマニノプという作曲家の新しい作品だったのかも」
「もしかしたらあれはピロコ先生ではなく、ヅラをつけた上沼恵美子先生だったのかも」
「あたくしは野村昭子先生だとずっと思っていたけれど、確かに上沼先生である可能性も捨てきれないわ……」
「第3楽章のラストは叫んでしまって……」
「あたくしは号泣……」

 ジョン・ケージの『4分33秒』のアバンギャルドさなどが裸足で逃げ出す、真のアナーキズム。これもロシア・アバンギャルドっていうのかしら。うふふ。

 ああ、こんな素晴らしい芸術をみなさんに肌で感じていただけないのがつらい! と歯噛みしていたのですが、ちょっと聞いた話だと、ある動画投稿サイトにアップされているとのこと。正直、これは禁じ手だけれど、興味のある方は「fooooo」などで検索してみてくださいませ……。アタシたちの絶叫と号泣の理由、きっと共有してくださるはず……。