フィギュアスケートマニアとクリスマスイブ

 今年のイブ、私はダンナ(仮名称)の家で、イデミ・スギノのクリスマスケーキ2種類と紅茶をいただきながらテレビを見ておりました。マンゴー、パッションフルーツ、グァバなど6種類の果物を組み合わせ、それぞれの酸味や風味の「独立性」と「マリアージュ」を凄まじいバランスで両立させた『フィースト』と、ショコラ×ピスタチオ×スミレ×カシスの、口どけも香りも圧倒的な『ラウレッタ』。はあ、素晴らしかった…。

 で、見ていたテレビは、当然、フィギュアスケート全日本選手権です。宇野昌磨が「ステップシークエンスやコレオシークエンスのときだけでなく、プログラム全編にわたって『不明確なエッジが見あたらない』という選手になりつつある」ことに、あらためて感服。そんな明確なエッジに、音楽をからめていく。これができてこそ、世界の超一流の選手なんですよね…。

 2位に入った田中刑事。NHK杯のフリーが特に素晴らしかったのですが、今回も、それに近いところまで出してきた。2戦続けてかなりいい出来で滑るって、本当に難しいはず。なんというか、ひとつ壁を超えたのかもしれません。
 フリーの曲は、歴史に名を残すイタリアの映画監督フェリーニの『アマルコルド』『カビリアの夜』『81/2』をメドレーで。フェリーニ超好き。『道』と『81/2』は25年前、大学生のときに見てその日は眠れなくなるくらい感動したり興奮したことを今でも覚えています。
 で、田中選手が使った『カビリアの夜』『81/2』のあたりは、あたくしの世代としてはどうしてもウソワ&ズーリンのリレハンメル五輪のフリーダンスを思い起こさせます。

 久しぶりに見てみましたが、やはり素晴らしい。冒頭、軽く3歩蹴っただけで、なんでこんなにスムーズにシャープなカーブを描けるのか(しかもお互いのホールドが微動だにしません)。その後も、何度も「ひゃあー」と声が出てしまうほど、滑らかで無駄がなく、上手い。F1レースでいうところの「ヘアピンカーブ」みたいなエッジワークや、進行方向に対して90度に近い角度でスケートの刃を出していく(前に進むスピードをガッツリ削りかねないということです)エッジワークを盛り盛りに入れても、スピードも態勢もまったくゆるみがないって、いったいどうなっているんでしょう。
 世界選手権の覇者であり、オリンピックでも複数のメダルを持っているアイスダンサーと、シングルの選手を、エッジワークで比較するのは野暮なので、ウソワ&ズーリンのことはこれくらいにしましょう。個人的には、田中選手が去年の『椿姫』からガラリと変え、こういったコミカルな曲にチャレンジしたことに拍手を送りたい気持ちです。ドラマティックな曲の力を借りて演技にドラマ性を出すより、こういった曲で演技全体から小粋さを浮かび上がらせるほうがはるかに難しいと私は思うのです。で、その小粋さ、とてもよく出ていたのでは。最後のコンビネーションスピン、特に足替え前のスピードもいいですねえ…!

 女子のシングルは、本当に素晴らしい演技がたくさん…! 宮原知子のとことん精緻でありながらスピードあふれる(あの小柄な体、絶対に少ないはずの体重で、あそこまでスピードに乗るって只事ではありません)演技も、本郷理華のダイナミックで躍動感あふれる演技も特筆すべきものでした。浅田真央は、個人的にファンなので冷静には語れませんが、ただただ本人が納得する道を進んでほしい、それを本人ができていると思っているのならそれだけでいい、という感じです。

 で、温故知新派としては、やはり樋口新葉が使っていた曲に肩入れしないわけにはいきません。思い出すのは何と言ってもベレズナヤ&シハルリドゼのソルトレークシティーショートプログラム。私は、ペアの歴代ナンバーワンにゴルデーワ&グリンコフを置いているのですが、それでも、この演技は、オリンピックの歴史上でも1,2を争う名プログラムであり、出来栄えです。まだ15歳の樋口選手はともかく、コーチがこの演技を知らないはずがありません。「この曲を使う」という決断をしただけで、コーチがどれだけ樋口選手の能力を信頼しているか、わかりますわ。