歌舞伎町階級社会

 数年間の海外在住を経て日本へ帰国したオカマ友達と、このところお茶をする機会が増えているあたくし。場所は歌舞伎町の喫茶店珈琲貴族エジンバラ』を利用することが多いかしら。「ずいぶん大きく出たものね」と言っていいのかどうかすら分からない凄まじい店名ですが、英国貴族階級の人々が絶対にしないようなお話をしているお客が多いので、あたくしはついついこの店で長居をしてしまうのです(コーヒー自体の味もけっこう好み)。

 この間もひとりでお茶をしているとき、隣の席で、昨日今日田舎から出てきたばかりといった雰囲気の20歳そこそこの小僧が、ホスト崩れみたいな格好の30歳前の男たち3人に囲まれて、ネットワークビジネスの熱心な勧誘を受けてました。「夢って絶対に実現できるんだよ。ただ、みんなその方法を知らないだけなんだ」とか「これからの人脈がすべて自分の成功に直結するんだ」とか、こんな薄っぺらい文言で引っかかる人間なんているわけないじゃないの、と鼻で笑っていたら、1時間も経たないうちにその小僧、何かの書類にハンコをうってましたわ……。これで上にいる人たちが、また貴族的な生活に一歩近づいたというわけですね。ちなみにこのお店のコーヒーは800円前後するのですが、ホスト崩れ3人に自分の分のお茶をおごられ、その小僧、ペコペコ頭を下げ続けています。小僧ちゃん、そのコーヒー代はね、際限なく搾取される側の人間に、搾取する側の貴族階級の人間が、大いなる搾取の前にわずかな施しを与えるようなものなのよ。「損して得取れ」って諺、ご存じ?……と思いつつ、そんなことはもちろん口には出しませんでしたけれどね。

 さて、そのオカマ友人を便宜上「友人K」と呼ぶことにします。友人Kは、仕事ひとすじでお金を貯め手に入れたテナントの収入で優雅な海外生活を送っていたものの、「やっぱり恋をするなら日本人のほうがいいわ」と、現在は東京を拠点にアバンチュールに精を出しているそう。で、まあ、さまざまな場所に顔を出しているようなのですが、アバンチュールにはいろいろトラブルもつきもの。この間も、出会ったばかりの男とのアバンチュールが終わり、シャワーを浴びている隙にお財布の中の1万円を抜き取られてしまったみたい(抜き取られたことに気づいたのは家に帰ってからのこと)。そんな話を、珈琲貴族の、50代のお金だけは持ってそうなオヤジと20歳そこそこの小僧が伊勢丹の買い物袋から買ったばかりの洋服を取り出してチェックしている横で聞いておりました。

「体の相性だけはよかったのよねえ……。でも悔しくて。なんか仕返しの方法ないかしら」と物騒なことを言う友人Kをやんわりとたしなめつつ、そういった種類の子を使って楽しく遊ぶための方策をいろいろ伝授するあたくし。公の場で書くには少々意地悪すぎる内容だけに詳述は控えますが、あまりに盛り上がってしまって馬鹿笑いしてしまい、お店の人に「申し訳ありませんがもう少しお静かに……」と言われてしまいました。ええ、珈琲貴族において、もっとも貴族的でないおしゃべりをしていたのは、ネットワーク派でもウリセン派でもなく、あたくしたちだったようです……。