帰省をずらして……

 世間はお盆休みだったようですが、あたくしは最近イレギュラーで実家に戻っているので、先週は東京でゆっくりしていました。で、DVDで何本かの映画を楽しんでいたわ。

 実家がド田舎にあるせいかしら、映画を、特に邦画を見ているとき、「田舎」というものをリアルに描いた作品には、なんというか胸が不穏な乱れ方をしてしまうあたくし。この10年の邦画界で、あたくしにとって田舎のありようをもっとも容赦なく切り取っている監督といえば、西川美和かもしれない。『ゆれる』と『ディア・ドクター』、それぞれにテーマがあるけれど、両作品ともに「田舎」の描き方があまりに正確で、アタシったら改めて感服するばかりだったわ。

『ゆれる』と『ディア・ドクター』における田舎の描き方は、一見すると真逆なの。『ゆれる』では、田舎は若い人たちにとって先行きの暗い、息詰まるものとして存在している。主役の2人のうちのひとり、弟役のオダギリジョーはそれが嫌で田舎を出て、もうひとりの主役・兄役の香川照之は対照的に田舎にからめとられている。香川照之の、田舎にからめとられ、じわじわと田舎に侵食されている演技が、「気持ち悪い」という表現がぴったりくるぐらいに上手かったわ。

 対して『ディア・ドクター』のほうは、一見とっても牧歌的な田舎を描いているようで、その実、笑福亭鶴瓶演じる主役の医師の正体が明らかになった後に、あれだけ医師を熱烈に崇拝していた人たちの熱が見事なまでの早さで引いていく、その落差の凄まじさが描かれる。医師の正体に薄々気づいていたがゆえ、田舎に蔓延していた熱狂にいまひとつ乗り切れなかった看護士(余貴美子)と薬品メーカーの営業(香川照之)のほうが、最後まで「情」のようなものを持っている様子が描かれるわけ。

 18年間、田舎暮らしだったあたくしは、都会で生まれ育った人たちにまま見られる、「自然」と「田舎」を混同したうえでそこにユートピアを見てしまう傾向に、鼻白むことが何度もあったのだけれど(あたくしは自然は好きですが田舎は大嫌いです)、西川氏の作品を見ると、若かった頃の記憶がまざまざとよみがえるような気がして、どうにも居心地が悪い。そして、“たかが”映画で、人にリアルな居心地の悪さを覚えさせる西川氏の手腕は、やはり見事と言うほかないのです。

さて、9月になったら、また高速バスに乗って実家に戻りましょうかね……。