生態系の破壊は深刻な問題です。世界の一部を除いては

 人ひとりが抵抗できない何かにからめとられ、堕ちてゆく様を、助け船も出さずにただ見守ること……。「一歩間違えば人権蹂躙」どころかアムネスティ・インターナショナルが本部ごとやってきかねないこんな表現も、その舞台が「新宿二丁目」で、演者が「ノンケとゲイ」で、演目が「せめぎあい」になるとあら不思議、人生においてこれ以上にゾクゾクする瞬間を見つけるのが難しいほどの極上の物件になるわけです。

 あたくしは今、ある二丁目の観光バーにおります。その店にはなぜか、ノンケの若手格闘家(このブログの2月9日分に記した大トラ)が、店子(お酒を作って客の話相手を勤める仕事)のバイトをしているのですが、その格闘家が現在、金も力もある四十路がらみのホモの方(しかもけっこうなモテ筋)に熱烈な求愛をされ、四苦八苦でそれをかわそうとしている現場の横1メートルのところで、大変美味しいジャスミン茶をいただいております。うららかな陽気に助けられ、ヘルニアの調子もだいぶよくなったところに金色の美味なる雫。そして真横ではエロティックかつスリリングな丁々発止。完璧な春の夜といえましょう。

「デートしたいなあ」
「ゴルフ行こうよ。教えてあげるから」
「温泉一緒に行きたい」

 格闘家の手を握りながら囁く金も力もあるホモの方の、その言葉にこもる湿度の高さは、どこからどう解釈しても本気そのもの。素晴らしい……。

 ええ、あたくしも鬼ではありませんので、本気で何かにぶつかろうとしている方を応援するのはやぶさかではございません。要所要所で、格闘家の頑な心を緩めるために、その格闘家がおよそリングでは受けたことがないだろう種類のプレッシャーを与えます。

「ゴルフの後にお風呂をご一緒しろ」
「いまさら2回や3回のデートで減るような体でもないだろう」

 そして、「テキーラを飲みすぎると必ず記憶がなくなる」と、わざわざ自分から弱点を晒す格闘家に敬意を表し、テキーラを浴びるほど飲ませて、四十路がらみのホモの方の援護射撃をしてみたり。

 いま、あたくしのやんわり(ええ、あくまでも「やんわり」です!)としたリクエストで、格闘家がTシャツを脱ぎました。金も力もあるホモの方、絵に描いたようなウットリさんです。格闘家とホモの方の距離は、互いの吐息が感じられるほどの近さ。格闘家が体を固くしている様子が、ここからでもはっきり見えますわ。やだ面白い……。

 それにいたしましても、新年会のときは傍若無人を絵に描いたような大トラっぷりだった小僧が、今日は借りてきた猫のようなおとなしさなのは、いったいどうしたことでしょう。考えますに、基本的に虎は生態系の頂点に君臨する生き物。自分が狩られる立場になったことがないからこその、「食われるかも」という挙動不審なのでしょうが、それがここまで見物だったとは……。

 ノンケが自らの貞操にひびを入れる瞬間は、今までに何度も見てまいりましたが(って言うかあたくしも何度もひびを入れた経験あり)、屈強なノンケがその体の強さを活かせずに翻弄されている様もまた、なかなかに刺激的ですわね……。