save the tiger? NO!

 新年会シーズンもひと段落ついた昨今、皆様いかがお過ごしでいらっしゃいますか。あたくしもこの1月はさまざまなお誘いをいただきましたが、ヘルニアの治療に専念するため、出られたのは1つだけでした。

 さて、忘年会や新年会に賑わう夜の街を歩くと、なかなかに獰猛な生き物に遭遇いたしますのは皆様もご存知の通り。それはたいそう大きな虎……。略しますと大トラ……。ええ、別名「大酔っぱらい」でございます。

 まあ、トラにもいろんな種類がありまして、人間を襲いさえしなければ、その生息も大目に見られるというもの。先日はあるお友達が、酔っぱらった末にマンションの階段でお洒落にすっ転び、アバラをやってしまわれた体験をネットにアップなさっていました。当然のごとく、友人知人から大評判です。目の覚めるようなイケメンがそこまで体を張るのです。「イケメン総取り」が当たり前になってしまったのを思い知らされるばかり。あたくしのようなルックスにも性格にも難のあるババアにはますますもって受難の時代と言えましょう。

 それにいたしましても、その方も脳などにはダメージがなさそうで、一安心のあたくし。と申しますのも2年ほど前、あたくしの別の知り合いはベロ酔い中、金メダルを獲得したばかりの荒川静香に触発されたのでしょうか、階段で見事なイナバウアーを披露し、次の瞬間のけぞったまま階段を転げ落ち、頭から足首まで念入りにやられまくって長期入院した経験がございます。

「避けられぬ転落なら、せめて前のめりに行け」
 泥酔時の鉄則でしょう……。階段は凶器です。人間の体がありえないバウンドをいたしますわよ……。

 さて、あたくしが唯一出席できた新年会、それは先週末、さる人気アーティストの方が主催した会でした。 そこにはあたくしもよく知っている20代前半の格闘家も出席していたのですが、シラフのときにはそのイモ臭いルックスと完成された体躯と礼儀正しさで数々の金持ちホモを破水させている(あたくしの教えを守っているなら「やらずぼったくり」を貫いているはずの)ツワモノが、テキーラの魔法で別の意味でツワモノになっておりました。

 西麻布の路上でズボンとパンツを下げ、踊りながら放尿しようとするのを必死で止める周囲に従ったのも束の間(このときはまだ正気だったのでしょう)、この極寒期に「暑い」と言いながら、チンコ丸出しでアスファルトの上を転がり、二次会会場では頭が上がらないはずの列席者たちを呼び捨てにし、スツールに座るあたくしの背後に回るやあたくしを羽交い絞めにし、あたくしのカシミアのセーターの腰部分に、発情期の犬さながらチンコをカクカク打ち付けて「マコトさん、あったけー」と耳元で囁く始末……。イモ臭い小僧に商品価値を認めないあたくしにとっては拷問でしかありません。ドルガバのセーター、本気で捨てようかと思ったほどです……。このあたくしが23〜4の小僧に

「ごめんなさい、堪忍して……」

 と謝るなんて、屈辱、汚点以外の何物でもないのです……。

 ずっと青い顔をして事の成り行きを見守っていた、そのトラの連れの格闘家が、トラが人気アーティストにメンチを切りながら肩パンを始めるや、素早くトラのバックをとって、軽く泡を吹くほどのチョークスリーパーをお見舞い。その後トラは文字通り「落ちる」ように大人しくなり、数十分後に撃沈……。搬送担当が、2次会の会場から徒歩5分もかからない場所にあるビジネスホテルに運んだようですが、虎を搬送するのに30分以上かかったそうです。

 ちなみに、山岳救助ボランティアの活躍を描いた傑作漫画『岳』によると、遭難者を背負って運んでいる最中、遭難者が事切れてしまうと、その瞬間、重みが急に増すそうです。今回の虎の搬送担当者が、

「普段、90キロくらいの人間を肩に担ぐくらい楽勝なのに、今回は2人がかりで引きずるように運ばざるをえなかった。『岳』の作者は、山を知っている」

 と感心しておりました。って、そんな感動的な話を聞いても、あたくしの落ち込みはまったく癒されません……。「小僧などには謝らない」生き方を曲げてしまった92歳(自己認識年齢)の冬、今年のテーマは「屈強な大トラをきちんと狩れる、勇ましいババアになる」に決定です……。

 皆様、これからの時代、淑女も文武両道でないと生き抜けませんのね……。ホント、早くヘルニア治さなくちゃ……。