都合のいい男(『都合のいい女』は内館大先生)

 速水もこみちは、現在、というよりも日本芸能界史上もっともハイスペックなイケメンよ。ルックスに関しては人それぞれ好みがあるから脇に置いておくとして、身長、顔の小ささ、脚の長さを総合すれば、右に出る男子芸能人はいないわね。「どうしてもあと1人挙げろ」と言われたら、そうねぇ、斎藤工くらいしか思い浮かばないわ。

 イケメンというイケメンがしのぎを削る芸能界にあって、ひとりだけ「生き物として種類が違う」とまで思わせるほどの総合力。なんかの番組で木村拓哉と横並びで椅子に座っている様子が映ったときは、木村拓哉に同情すらしたもの。いや、「木村拓哉の顔がデカい」「木村拓哉ともこみちの座高が同じ。“公称”の身長差は10センチなのに」って言うよりは「もこ、顔小さすぎ」「もこ、脚長すぎ」という印象ばかりが残った、という感じね。

 で、もこみちは、現在の若手男優陣の中でも指折りの大根です。って、ここでハッキリさせておきますが、単に「演技力がない」という意味での「大根」なら、大根じゃない若手俳優を探すほうが難しいくらいよ。そうではなくて、大根って、「その俳優が演じているシチュエーションを、見る側に“リアル(っぽい)”と感じさせることができない」ということ。相手役の女優よりはるかに顔が小さくて体型のバランスも素人離れしている、生物として「美しい」もこみちが、いくら相手役の女優(同い年くらいで、突出したキャラ設定もされていない女子の役)に惚れている役柄を演じたとしても、そこにリアリティが発生しないのよ。この組み合わせなら、夢中になるのは女子のほうだろう、と。あんまりイケメンなもんだから、フツーの「恋するオトコ」の役ができないわけ。つりあう相手役がいないの。

 そういう意味で、『ぼくの魔法使い』はよかったわ。「おれ」が「おで」に、「オムライス」が「オムダイトゥ」になってしまう、壊滅的なまでに滑舌の悪い役。そういう足かせをもこみちに課した唯一の作家・クドカンは、なんだかんだ言っても役者の光らせ方を知っていると思うわ。

 さて、そんなもこみちの新しいドラマ『絶対彼氏』。恋人として設定された女子に無条件で献身的な愛を注ぐロボット「ナイト」の役。やけっぱちなまでに「リアル」からは遠い役柄だけど、皮肉なことに、いままでもこみちが演じたどの役柄よりも「リアル」だったわ。よすぎる体型は「ロボットだから」、棒読みなのは「ロボットだから」、相手役の女優に献身的に尽くすのは「そういうプログラムを施されたロボットだから」で、きちんと説明がついてしまうの。いやー、すごいとこ持ってきたわね。

 原作の漫画のファンの子たちには、大きく変わってしまった初期設定(主人公が女子高生ではなく製菓会社の派遣になっているため、登場人物たちすべての背景が違う)が不満かもしれないけれど、少なくとももこみち、漫画のナイトよりはるかにロボットっぽいです。そして、萌えのツボをことごとく刺激してきやがります。これ、もこの一番の当たり役だわ。

 現実には、こんな都合のいい生き物、というかロボットなど存在しないので、「新種の白馬の王子様物語ね。これはこれで危険だわ」と思うけれど、ま、そのことさえ理解したうえで鑑賞するなら、「萌えドラマ」としては一級品でしょう。もこ、可愛いわ……。