櫻の園にはまだ早く

「お墓って、人類の発明よね。死んだ人を忘れないように、でも安心して忘れないさい、っていうために作られたものだと思うわ」


 久しぶりにドラマ『すいか』を見て、浅丘ルリ子演じる教授の言葉にホロリと来る。いまのアタシには、月に1度お参りに行く人が1人、年に2,3度お参りに行く人が10人ほどいる。今月は、月に1度お参りに行くあの人の誕生日、そして母の命日がある。


 いま、母のことや、3年前に亡くなった友人のことを思い出しても、アタシは「素敵な人がいたわ」ときちんと言える。誰に対しても言える。あと1年ほどしたら、あの人のこともそう言って思い出せるだろうか。ちゃんと書けるだろうか。それができるようになったとき、アタシが感じるのは嬉しさか哀しさか。


 そろそろ桜がつぼみをつける頃だろうか。10月のあの日からずっと聴くのを避けてきた松田聖子の『櫻の園』をかけながら夜の街を歩いてみよう。