ベストドレッサーとは何ぞや

 ファッションは、メゾンが生むのではなく、気合が生む。

 自分のサイズにピッタリ合ったトップブランドのクチュールを着れば、誰でもそこそこオシャレに見えてしまう昨今、アカデミー賞のレッドカーペットはつまらなくなるばかりです。いや、そりゃあシャネルもディオールもカヴァリもヴァレンティノも、素敵は素敵よ。ハリー・ウィンストンもグラフもフレッド・レイトンもショパールも、ウットリさせてくれるのは間違いない。でも、そんなの別に女優が身に付けなくたってねぇ。

 誰もかれもここぞとばかりに「ブチ切れた」役をやりたがるのに、こういうときに限ってコンサバゴージャスになるなんて。それが悪だとは思わないけれど、それしかないのは悪だと思うわ。みんながみんな、アナ・ウィンターのセンスに迎合することないじゃないの。ワースト・ドレッサーに選ばれることがそんなに怖いのか。物議をかもす役柄を演じるのは大好きなくせして! アンタたちは贅沢ができる立場にいるんじゃない。枠を広げられる立場にいるのよ!

 っていうか、「枠を広げる」という地点さえとうに過ぎ去り、「ベストorワースト」などという陳腐な枠組みを鼻で笑ってみせる剛毅なオンナがここ数年現れてくれないことが、返す返すも残念でなりません。

 アカデミー賞の会場をたった一人で場末のストリップ小屋へと変貌させたシェール御大。「オンナたるものコンサバ系エレガンスを貫くべし」というテーゼをあっさり破壊した御大に続くオンナはいないのか。

 ビヨンセが、『deja vu』のPVでアホの坂田師匠のお約束ムーブや志村けん先生の「ショーック!」に多大なリスペクトを捧げた事件にさかのぼること数年、『東村山音頭』の「イッチョメ!」に限りない敬意を払ったビョークさんの艶姿。あの勇姿にインスパイアされるオンナはいないのか。ビョークはレッドカーペットの上で卵まで産み落としやがったのよ! 「人間のオンナ」という枠組みまで晴れの舞台で壊しにかかったの! 素晴らしい! そのお二方に続く逸材が、来年こそは現れてくれることを切に望みます……。

●シェール
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ビョーク
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 あ、でも昨年のジェニファー・ハドソンにはちょっとアガったわ。メタリックなパイソンのショートボレロが、若手女子プロレスラーの入場ガウンみたいで。強そう……。

ジェニファー・ハドソン
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