瞳の誓い(井森美幸)

 10月の中旬以来、食っちゃ寝て仕事して、合間合間にまた食って……という、パーソナルトレーナーが目にしたら卒倒しそうな怠惰な日々を送っきたアタシ。「そろそろかしら」と思っていたら、案の定、やってきやがりました。手持ちの洋服の、特に縫い目あたりが悲鳴をあげております。

 アタシは年が明けるといつも、「年度計画」と称してその年の目標を立てていたものです。「親しみやすいオンナ」「かわいげのあるオンナ」「色に狂うオンナ」……。ええ、どれもこれも達成されたためしなどありゃしません。っていうか、目標を口にした時点で四方八方から飛んでくる罵詈雑言が面白くて、こんな絵空事をわざわざ表明せずにはいられないアタシもアタシなんですけどね。ただ、今回ばかりは本気なの。

 アタシの今年は目標は「6月あたりにドルガバの水着を買って、パークハイアットあたりのプールで優雅に小麦色のマーメイドを気取るオンナになること」と決めました。過去に立てた誓いより、こんなクソ嫌味な誓いのほうが「リアル」であることの同義的な是非は、今回も華麗にスルーさせていただくわ。バストは100を少々切る程度、ウェストはアンダー70を目指し(この数字だけだと、イメージされるのはむしろ細川ふみえあたりに近いわね)、近々ダルマの国・ゴールドジムへの再渡航(実際には再々々々渡航くらい)を果たします。ちなみに「ダルマの国」とは、筋肉がつきすぎてアタシの目にはダルマのようにしか見えない人たちがヒエラルキーの頂点に位置する不可思議さを自分の中でどうにも解釈しきれなくて、半ば自棄でアタシが生み出した造語です。うふふ。

 実は昨年末、すでに、山のようなプロテインアミノ酸各種もいただいてしまっていたの。いただいた経緯が経緯なので捨てるわけにもいかないし、まあ、「きちんとドルガバの似合う体型になっておけ」というお告げが下されたのだと思って本腰を入れてみましょう。ボディメイキングに関しては、友人の格闘家たちや、同じく友人の、たぶん日本一のボディコントローラー・小倉義人くんなど、その道のプロフェッショナルがたくさんいるのでね。

 お金はあります。お洋服もあります。センスもあります。威圧感は言わずもがな。ナイスバディもありますの(若さと美貌はさすがに「あります」とは言えませんが)。 そんな、さらにクソ嫌味なババアを目指し精進いたしますわ。

……などという話を友人たちにしてみると、友人のドラァグクイーン・バブリーナから「姐さん、パークハイアットもいいけど、ダルマなホモのみなさんは、昨年●●プールに民族大移動を完了したみたいよ」という大変耳寄りな情報が。

「え? ●●プールって確か……」
「そう、公営」
「キャー、アガる! 浮き輪につかまってキャッキャとはしゃぐダルマホモのみなさんと地に足をつけて生活しているご家族連れが共存する異空間を、90歳の小麦色のマーメイドが闊歩するのね。なんというカオス! 絶対にナイスバディになってやるわ!」

 などと電話で大盛り上がりの1時間の間に、ハッと我に返ると、いただきもののグッチのチョコレート(16個入り)がなぜかきれいに消えていたりするわけですが……。どうしましょう、言ったそばからこの体たらく……。今回の目標は計画倒れに終わってはならないのに……。