胸騒ぎの月末

 基本的に、youtubeは引用してはいけないメディアである、とわかっているのですが、みなさんとこの思いを共有するために、一度だけ禁を破ります。ご容赦ください。

 昨年の大晦日、あたくしは『紅白』を録画して、その時刻帯はほぼ丸々『年忘れにっぽんの歌』を鑑賞いたしておりました。一般的な意味での「人気の盛り」を過ぎた女性歌手たちが、全身全霊で「時間」という概念に抗い、ときにはシャーマンと化した生き様を余すところなく表現しきるその神々しさに、あたくし(と推定700万人のオカマたち)は何度、精神的絶頂に達したか分かりません。

 加えて、『年忘れにっぽんの歌』の何が素晴らしいといって、「視聴者が何を見たいと思ってるのか」を、カメラさんが熟知していること。「日本のイメチェンの女王・弘田三枝子大先生の、今年のお顔のコンディションはどうなのか確認しないと、安心して年を越せない」と思う日本人(99%はオカマでしょうが)の願いをじらしてじらして、最後には見事に昇華させる、その職人芸には脱帽の思いです。

 なんということでしょう。歌が始まっても、カメラはしばらく弘田三枝子大先生の背中とケツしか映しやがりません。ドキドキします。「もしかして先生、今年はついにお顔が映せないレベルに……? でも、でも……そんな状態だからこそ、見たい!」と狂おしいばかりの感情に身悶えるあたくし。ようやくカメラが前に出ても、今度はあたくしの絶頂をそらすかのように、とことん「引き」の絵が続きます。そしてツーコーラス目では、「何もそこまでアップにしなくても……」と言いたくなるほどのがぶり寄り。破れそうな口角、こぼれ落ちそうな眼球、すべてに血が騒ぎます。心穏やかに過ごすのがお約束のはずの大晦日に、この胸騒ぎはありえません……。素晴らしすぎます!

 そしてもうひとり……。皆様は、「アメリカの弘田三枝子大先生」の呼び声高い、ジョセリンという名のオンナをご存知でいらっしゃいますか。Googleの画像検索で「Jocelyn Wildenstein」と入力してみるとボロボロ出てきますが、なんと『年忘れにっぽんの歌』には、「日本のジョセリン」と呼びたい造形美を誇る方がいらっしゃるのです。ある意味「逆輸入」みたいなものでしょう。緑川アコ先生です。

 ここでもカメラはワンコーラス目は思いっきり引きであたくしをじらし、ツーコーラス目で怒涛の寄り。この押しと引きの絶妙な緩急で、生臭い話ですがあたくし、テレビを見ているだけで失禁寸前に……。今年、両シャーマンは、ちゃんと『年忘れにっぽんの歌』に出てくれるでしょうか。一応『紅白』もチェックしておくつもりなのですが、ますます頭の悪い子どもと頭の悪いジジババ向けになり、つまらなくなるだろうことは一目瞭然。実家での雑用さえなかったら、『年忘れにっぽんの歌』を録画して、2丁目に出向いて女装たちが繰り広げる『女装紅白』を見ながら1年を終えたかった……。

 そんな思いを胸でくすぶらせながらようつべをチェックしておりましたら、なんと、かのNHKにおいてはすでに30年以上前に『女装紅白』が繰り広げられていたのを知ってしまったあたくし。やはり昔のテレビはアバンギャルドでしたわ……。

 どこぞの小娘がそらぞらしい初々しさをアピールして持ち歌を歌う鼻白むギリギリの演出。しかし、クライマックスは間奏部分にありました。南沙織の右側から、オカマが、つうか女装が勢ぞろいです。ええ、2丁目のクラブイベントに出てくる女装は、寸分たがわず本当にこんな感じですのよ奥様。しかも最後に映る「元祖・あゆ」を除き、誰一人、心からの笑顔を見せていません。やっぱり紅白はこうでなくっちゃいけません。

 いろいろありすぎた今年、せめて大晦日くらいは、こんな心洗われる光景を目撃したいものですが、いまの紅白では無理だわね……。