土曜の夜何かが起きる

「今日のアタシのトークショーを記念して、昨夜は三田佳子先生が記者会見を開いてくださいました!」

 こんな不届き千万なご挨拶ではじまった、高山真のトークショー。いらしてくださった50名弱の皆様、こんな戯言にも笑ってくださって、本当にありがとうございました。

 ご来場の皆さんにもご紹介したけれど、1ヶ月前、大事な人の不幸があったとき、一番にアタシを支えてくれた、漫画家の森恒二あっきう夫妻も会場に来てくれたの。白泉社の屋台骨のひとりであるモリコーちんが、しゃらーっと講談社バンケットルームに入り込み、隙間エッセイストの話を笑って聞いている……という、コミック界的には「高山真とかいうヤツのトークショー」のゆうに30万倍はセンセーショナルな出来事が起こっていたのよ。ってか、アタシったら支えてくれた恩を100倍のあだにして返すように、トーク中もモリコーちんのことをいいようにネタにしてしまったり。モリコーちん、ごめんなさいね。ちなみにモリコーちんの『ホーリーランド』は、暴力をテーマにしながらも、その裏にある寄る辺なさや、大切に思う人同士でさえ互いの距離を測りきれないもどかしさ、そしてその先にある祈りや光を描く、素晴らしく力のある作品よ。

 さて、アタシのトークショーですが、リクエストがあったとはいえ、風邪が治りきっていない汚れた声で聖子の歌を一節披露したのも、思い返すと顔が赤くなる経験だわ。あれでは「アタシの喉には小さな松田聖子が住んでいる」と普段から豪語していたことが証明できたかどうかの自信がないわね。

 3時間の持ち時間のうち、2時間30分はみなさんのご質問に答えたり、マイクを向けた方のお話を伺いながらおしゃべりしていたので、その内容を詳しく書くことは、いらしてくださったみなさんのプライバシーに関わるかもしれない。なので、そのつかみネタの三田先生のネタを再現して、お礼に代えさせていただきます。

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 もう8〜9年ほど前になるでしょうか。次男が覚せい剤で逮捕されたのを受けて、三田佳子先生が記者会見に臨んだのは。あの会見は、当時、底意地の悪いオカマたちの間で半ば伝説と化したものでした。

「超大作映画の制作発表だって、ここまで決めてくるタレントはそうそういるもんじゃない」とツッコミが入っても仕方がないほどの完璧なヘアメイクに、ありえないほどの輝きを放つサテン地のキルティグジャケットで武装し、報道陣の矢継ぎ早の質問を、「ショックで固まっている」というよりは「ガン飛ばし」にしか見えない表情でさばき続ける三田先生の雄姿に、オカマたちも思わず大絶叫。失禁寸前です。

 そんな先生の雄姿に合わせるようにして、かの名作『Wの悲劇』で三田先生演じる羽鳥翔が放った名セリフの数々をアフレコし続ける……という、道義上大変問題の多い遊戯に興じるオカマたちも、日本中のそこかしこで雲霞のように発生したとあたくしは確信しております。



「だからスキャンダルなのよ!彼にとっても、あたしにとっても!」
「あたしが……駆け出しだったら……マスコミだって同情してくれるわよ」
「でもダメなのあたし。もう有名だから。スターなんだもん。スキあらば、引きずり降ろそうと思ってさ、みんなで待ち構えて」
「あ”〜もうあたしダメだわぁ〜……おしまい……ただのオンナになっちゃう」
「そうよ……スキャンダルを逆手に取るの!」
「あたしたち、お客様に道徳教えるために芝居やってるわけじゃないでしょ? 私生活を舞台とどんな関係があるの? 私生活が綺麗じゃなきゃ、舞台に立つ資格がないっておっしゃるの?」
「それじゃどなたかしら、舞台に立つ資格がおありになるの。みんな資格なんかないんじゃないのっ!?」



 この珠玉のセリフの数々……。こんなセリフしか似合わないほど、あの会見での三田先生は勇敢に戦っていらした。いや素晴らしかった……。

 さて、ドラ息子が先日3度目の逮捕と相成り、また会見を開いた三田先生ですが、さすがは大女優です。前回とは真逆の役作りで新たな女性像を作り出すことに成功していらっしゃいます。

 あえてプロの手を入れずに無造作に留めたヘアに、血色を可能な限り抑えた青白いメーク、洋服に至っては、ファッションセンターしまむらで買ったのか、と思うほど地味な深緑色のタートルにグレーのスーツです。そして、「前回とは全くの別人になったのか」と思うほど、涙ながらに自分たちの至らなさを反省してはハンカチで鼻や目頭を抑え続ける、という「耐える母」をまさに熱演。以前の会見で巻き起こったバッシングの大きさを思えば、まあ、妥当な判断といえましょう。

 それにしても三田先生の、女優としての表現の幅の広さ・深さには脱帽するよりほかございません。以前の会見で使えなかった唯一の『Wの悲劇』からの名セリフを、あたくしはここぞとばかりにアフレコしまくり、三田先生の実人生と羽鳥翔の生き様をちゃんとシンクロさせることができたのですから。

「あたしがもうちょっと若かったらなぁ、あそこ(会見場)で涙流せたのに。フラッシュ浴びて涙流せたのに」

 三田先生、女優の若さは実年齢ではございません。三田先生は十分お若く、そして、あのファッションセンターしまむら製みたいなスーツでも、フラッシュを浴びて輝いていらっしゃいましたよ!

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 こんなことを話していたんですよ。この時点で「1000円返せ!」というブーイングが巻き起こってもまったく不思議じゃないっていうの。うふふ。

 ただ、みなさんのご質問に答えるコーナーでは、普段自分が考えていることを、ライブで、しかもご質問者の方の目を見てお話ができた(と自分では思っている)せいか、ものを書いているときとはまた違った高揚感や充実感がありました。

 加えて、初めて人前で話せた、1ヶ月の不幸のこと。あのことを口にできたことで、アタシは、あの経験から何かしらの「意味」を見出す意志をさらに強くすることができたような気がします。

 次は大阪。12月1日はアタシにとっても特別な日なので、かなり力が入っています。関西地方に「高山真」としてお邪魔するのは初めて。お目にかかれることを楽しみにしています。