もうそこまできたTYPHOON

 ひどい雨が降っている。台風が近づいているそうだ。

 昨夜、食事を終えて蕎麦屋さんを出ると、月があまりにも明るくてびっくりした。この10日間、何もないところですら躓いてしまうことが何度もあり、いつも下を向いて歩いていたせいか、夜空に月があることさえ忘れていたのだ。

 月にかかる鰯雲までが透き通るように輝いて、冴え冴えとした東京の空気が、なぜかおかしかった。

 今朝、目覚ましよりも早く、雨の音で起こされた。アスファルトと窓ガラスを打つ雨の音は、夕べのどこか馴染みのない月明かりと風のにおいとは違う、いつもの東京の雨の朝だった。

 天気は変わる。あんなに明るい月夜の数時間後にだって、雨は降る。

 友人に囲まれて笑い声をあげた数時間後に、自分でも気づかないうちに涙が出ていることがある。人が残されるというのは、そういうものだ。だから、焦らない。それを20年以上も前に教えられたのは、心強いことなのか悲しいことなのかは知らないけれど。