街は訪れるためにある。映画は見るためにある

 体調や年齢を言い訳にするのはダサすぎる、という自覚は深々とあるのですが、夜の街に繰り出す頻度はガクッと減ってしまいました。それでも、1ヶ月に何度か、「今日はかなりいい感じ。日中の過ごし方が穏やかすぎたせいかしら、夜になってもかなり元気だわ」と思うときには、ちょっと頑張って出かけてみたりしています。って、「47歳の身で1ヶ月に何度もそういう感じになるのなら、充分元気じゃねえか」と思った方はいらっしゃるでしょうか。あたくしにとっては本来、3日に1度くらいの頻度でこういう感じになるものなのです。ええ、あたくしは「病も元気も気から」の熱烈な信奉者です。とは言え、病気に関してはお医者さんを全面的に信頼してはいますが。

 先日は二丁目のさるお店で、ジャスミン茶などを飲みながらママと語らい、カラオケなどたしなんでおりましたら、店に入ってきたお客さんが「高山さん!?」と。なんと15年近く前、『Oggi』(小学館)の連載を立ち上げてくれた初代編集者・Sさんでした。彼女は、あたくしが別名義で書いた『エゴイスト』の編集者も務めてくれた方。それなのにあたくしったら、名乗っていただくまで彼女のことが認識できませんでした。つかSさんったら、15キロ近くのダイエットに成功したんですって! 女性で15キロって凄い数字よ。ほんと、バーの薄暗がりの中のシルエットはもちろんのこと、近くでまじまじみても、目の大きさから鼻筋の通り方の激変は言うに及ばず、頭蓋骨の大きさまで変わってしまったように見えたんですもの。

 Sさんは「高山さんのお体のことは『恋愛がらみ。』を読んでいましたから、もちろん知っていましたけど、ご連絡を差し上げていいものかどうか、ずっと迷っていた」とおっしゃって。そうよねえ、あたくしも、仕事がらみで近しい人の「あの人、がんなんですって」という話を、人づてに聞いたとしても、その人にご連絡をするタイミングをはかりかねてしまうもの。

 いやあ、夜の街には出てみるものね。好きな人に、いまのあたくしの「リアル」を見せられてよかった。それに、やる気も出ましたしね。代謝機能がおかしくなって早数年、もう自分の「今の」体をコントロールすることだって可能なはずです。炭水化物カットのダイエットは肝臓に負担をかけるので無理ですが、方法はまだあるはずだものね。

 さて、まずは近々、映画を見に行くことから始めましょう。ちょっと自慢させていただきますと、あたくし、この間、『レタスクラブ』(KADOKAWA)の担当さんのお計らいで、脚本家の山本むつみさんにお目にかかる機会を得たのです。山本さんといえば『ゲゲゲの女房』『八重の桜』『相棒』『コウノドリ』などを手がけられた、押しも押されもせぬ脚本家。その方が、あたくしの『恋愛がらみ。 〜不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』をたいそう面白がってくださった、と担当さんに聞いたのがきっかけ。おしゃべりの会は本当に楽しいものでした。

 その山本さんが、映画の脚本を初めて手がけられた作品が、24日から公開されるのです。『いつまた、君と 〜何日君再来』は、向井理さんのおばあさまの半世紀を映像化したもの。あたくし、こういう「激動の時代を生き抜いた女の物語」に弱いのよ。最近もっとも好きな漫画のひとつは、有間しのぶの『その女、ジルバ』(小学館)だったりするし。なんと言うか、世代とか血縁とかを飛び越えて、命とか生き様とかの「バトン」を受け渡してもらっているような気持ちになるわけです。そうそう、ペドロ・アルモドバルの映画『オール・アバウト・マイ・マザー』が好きなのも同じ理由ね。

 同じ場所や同じ時代を生きていない人から学べるもの、吸収できるものはきっとある。見えないバトンは、きっと自分の周りにもいくつもある。最近ますます、その「見えないバトン」を探したい、感じたい欲求が大きくなっているあたくしです。

 向井理さんについては、この表記を不思議に思った方もいるかしら。あたくし、個人的な知り合いではない俳優や作家に「さん」なんて敬称、つけたことがない人間。ただ、向井さんに関しては、どこまで話していいものか迷うけれど、仕事がらみで「なんて素敵な方なのかしら」と思ったことがありまして。「この案件における向井さんのお優しさや義侠心が表に出ることはないかもしれないけれど、あたくしは一生覚えておきましょう」という出来事があったわけですよ。それ以来、面識もないのに勝手に肩入れしちゃっていたりするのです。

 あたくしの場合、何かしら予定を先に入れておくと、不思議なもので体調も上向いてくるの。やはり街は訪れるためにあるし、映画は映画館で観るためにあるものよね。
http://itsukimi.jp/
 このHPの「劇場情報」を見てみると、やはり近いのは新宿ね。映画の帰りに伊勢丹によって、エヴァンのマカロンとか買って帰りましょう。楽しみ…。

 あ、少しお知らせが遅れてしまいましたが、『小説すばる』(集英社)、17日に発売しています。あたくしにとっての医食同源のひとつ、ケーキに関するエッセイです。よかったらご一読くださいませ。