白い鼻、さくらの鼻

 20代のころから、髪を切ってもらうときは、カラーリングを必ずセットにしていたせいか、90歳(自己認識上)になったいまでも、あたくしの頭には、相当数あるはずの白髪が見当たりません。それが100%、定期的なカラーリングのおかげであることをすっかり忘れ、実年齢より若く見えることに何よりも喜びを感じる小ぬるいホモ(あえてこの呼称を使います)の皆さんと大差ない精神モードで数十年を過ごした罰が下ったのでしょうか、ここ数年、下の毛と鼻毛に相当数白いものが混じるようになりました。加えて、ここ1年ほどは、ついにヒゲにまで白いものが……。

 ただ、それらを発見したとき、あたくしの心に浮かんだのは、ショックよりも、むしろ好奇心と呼ぶべき種類の感情でした。「いい機会だし、このまま、尊敬してやまない島田順子先生の域を目指してみようかしら」との思いを濃くしております。ちなみに現在の島田順子先生は、往年の志村けん先生ばりに後ろで束ねた長髪に、おされサングラスなどをかけた小太りの男と一緒の写真で、そのお姿を確認できます。

ttp://fanet.jp/regular/don_konishi/105.html
(「島田順子」でググってみると2番目に出てきますが、念のため)


 顔立ちは横の小太りなどよりも遥かに精悍な「男」。かつては「自然体が好き。だからファンデーションを塗ったこともほとんどないの」と仰ったこともおありの島田先生は、「お鼻とお口の間にうっすらおひげが生えてきたのでは……?」と思わせるビジュアルもあえて手付かずのままで、その言行一致の美しさは神々しささえ漂います……。

 さて、「まだ白い鼻毛なんてないの〜」などと、力の限りに若者ぶるイタいホモの方が友人知人に一人もいないゆえの、少々間違った安心感から質問させていただきます。皆様は、いついかなるときに、ご自分の白い鼻毛にお気づきになられましたか? あたくしは、自宅で親指と人差し指を使って、時おり涙ぐみながらブチブチと鼻毛を引きちぎり、それを某ファッションブランドの黒光りする紙質のDMの上にはらはらと散らす……という習慣にとりかかっているときに発見いたしました。「どうせ捨てるDMだし、黒い紙の上に黒い鼻毛を捨てても、ビジュアル的に気にならないわ」などと思っておりましたらば、なぜか紙の上に鮮やかな白黒のコントラストが……。

 以来、「ショックというよりも好奇心の感情」に従い、あたくしが鼻毛を抜く頻度は急上昇。「いったいこの両の鼻の穴の中に、どれだけの白髪が……」と、ヒマさえあればブチブチやるようになってしまいました。この間に至っては、気がつくと友人の前で真剣に鼻毛抜きに興じてしまい、その友人から黙ってティッシュを差し出されて我に返ったことも……。

 いくら「自然体の島田順子先生が目標」と言っても、このような“自然体”はさすがにマズい……と、「指で引きちぎる」から「鋏で切る」へと手段を変えてみたのも束の間、鋏が鼻の内側を鮮やかに切り込んで大流血。「震えているのが自然」な、90歳(自己認識上)のおぼつかない手で自分に刃物をあててはいけませんことね……。

 というわけで、この週末、あたくしは生まれて初めて、お買い物目的で「さくらや」という場所に足を踏み入れました。ええ、鼻毛カッターを買うためです。が、売り場に行ってみてビックリ。なんなんでしょう、この異様なまでの種類の多さは……。「あたくし以外の人は、ほんの2,3日放置しただけで鼻毛が1メートルくらいの長さになってしまう体質なのかしら」「それともあたくしが知らないだけで、皆さん、柔毛、剛毛、巻き毛に直毛と、人それぞれに鼻毛の悩みを抱えていらっしゃるのかしら」と邪推でもしなければ、とても説明がつかない数の鼻毛カッターがずらりと並んでいます。これを果たして「壮観」と呼んでいいものかどうか……。

 フロアを移動して、しばらく他のお客様の振る舞いを観察してみましたが、テレビや洗濯機、パソコンなどの売り場で店員さんに質問する人はいても、鼻毛カッター売り場で店員に質問を飛ばすお客様は30分待っても皆無でしたので、あたくしも店員さんにお勧めの鼻毛カッターを訊くことがどうしてもできませんでしたわ……。鼻毛カッター売り場に一人ぽつねんとたたずむ、全身ドルガバの37歳のゲイ(内面は90歳のババア)。その異様な光景が、せめてそれを目撃した方々にとって、何かしらのサービスであってくれたらと祈るよりほかございません……。