『一年ののち』はサガン

 肝臓がんの告知を受けて2年が経ちました。この2年で何度か入院して手術をしましたが、告知されたときに自分で予想したよりは平穏な日々を過ごせています。正直、「お鮨やお蕎麦は大丈夫だろうけど、ケーキ禁止令とかイタリアン禁止令とか天ぷら禁止令がでたらどうしよう」と震えあがりましたもの。

「そこ!?」と思った方もいるでしょうか。でもあたくしにとっては、寿命が2〜3年伸びることよりも、日々の生活の『好きなこと』がなくなってしまうことのほうが重い問題だったのです。ダンナ(仮名称)はあたくしと食事をする際、お店をいろいろ悩むのが定石なのですが、その悩み方が「少ない選択肢の中から選ばざるを得ない」のか、それとも「お互い好きなものがたくさんかぶっているがゆえの嬉しい悩み」なのか、そこは本当に大きな問題ですものね。

 先日は久し振りに神楽坂の「おの寺」へ。コストパフォーマンスの素晴らしさゆえ、予約が非常にとりづらい和食のお店です。前回行ったのは、あたくしの病気が発覚する前だったはず。今回も、最初のお皿の「お野菜のおひたし」から、お出汁の深みと切れ味を堪能したわ。お出汁の素晴らしさに加え、もうひとつ。トマトには岩塩、アスパラガスにはキャビア…と、違ったものがちょこんと乗っているのも素敵。野菜ごとに「この塩っけで、このエクストラな味つけで食べてほしい」という、さりげなくも素敵な心遣い。すべてのお料理から、そういった「しっかりとしたベースに加えた、ちょっとしたサプライズ」が感じられる。カチョカバロが入った茶碗蒸しも大好物。最後の「アジの炊き込みご飯」なんておかわりしちゃったもの。病人とは思えない、相変わらずの健啖家…。うふふ。

 頻度は確かに減りましたが、ケーキも楽しんでいますわよ。ケーキ禁止令が出ていないおかげで、小説すばるの連載も続けていられるわけですから、ほんとうにありがたい。お声がけをいただいたときは、半年の連載予定だったのですが、そこから1年伸びて、全18回の連載になったのは、ひとえに推定4人の読者の皆様のおかげです。それをまっとうできそうで本当によかった。9月号が8月17日に発売されています。よかったらご一読くださいませ。