「血」とはなんぞや

 歌舞伎にはまったく詳しくないあたくしでさえ、市川海老蔵成田屋の御曹司であり、同年代のほかの歌舞伎役者よりひとつもふたつも大きな家の若様だということは知っています。長男として生まれた瞬間から、トラッドだのオーセンティックだのエステティックだのの概念とその表出を、さまざまな方法論で叩き込まれてきた、日本文化の継承者のひとりである、ということも。

 そんなエビたんが結婚しました。市川團十郎家が代々信仰する成田山新勝寺のご本尊を出開帳した、東京プリンスでの仏前式。新勝寺のご本尊が結婚式のために出開帳したのは史上初めてのこととか。エスタブリッシュとしかいようがありません。

 歌舞伎役者勢ぞろいと言った趣の列席者の中には、小泉・森の元首相、前原現国交相といった政界からの顔も。政治家としての手腕を不問にし、肩書きだけで見れば、まさにエスタブリッシュの王道です。

 披露宴のお料理は銀座久兵衛のちらし寿司、オテル・ドゥ・ミクニ、レストラン山崎などが集合。ヘタすりゃ無難とよばれかねないほどの、ど真ん中のオーセンティックっぷりです。

 スワロフスキーを1万個だか縫い付けたウェディングドレスは桂由美先生デザイン。オーセンティック中のオーセンティックです。

 で、エビたん本人が「子どものころから、どうしても結婚式ではこの歌を!」と願い続けてリクエストしたのは、山根康弘本人が二人の前で歌う『Get along together』。………………なんでしょうかこの落差は………………。

 すごいわエビたん。ここで『Get along together』を持ってくることが、いかに“むき出し”なのか、考えようとすらしていないド天然。30年以上に渡って日本文化の粋を誰よりも浴びて育ってきたのに、ここ一番で『Get along together』。大爆風、発生です。新勝寺のご本尊の出開帳も首相含めた列席者も久兵衛ミクニもレストラン山崎も、『Get along together』ですべてが吹っ飛んだわ(桂由美先生だけは微動だにしなかったけど。理由は後述)。

 アタシちょっと好きになっちゃったかもしれません、『芸能』の人のダサさの源を久々にこれ以上ない形で見せてくれたエビたんのことを(芸能人と桂由美先生の相性がいいのは、どちらも「ダサいからこそオーセンティック」ということを本能で知っているからです)。

 数百年に渡る「血」の継承、それにまつわるさまざまな英才教育……そんな程度のもので、本人の「血」(言うまでもないことですが、ここのみ「血統」という意味ではなく「田舎ヤンキーの血」という意味の「血」よ)が左右されるはずがない、ということを満天下に知らしめてくれた時点で、あたくしはエビたんを支持します。エビたん、笑わせていただいたわ!